ifの話

「もしも…」っていう空想語ったり、Reality話だったり、絵だしたり

アニポケ劇場 ~愛を育む“真っ白の日”~

 3月。今までの寒さはどこへやら。すっかり暖かくなってきた今日この頃。
「…もう春か」
 窓の外を眺めながら、シンジは時の早さにしみじみとなる。
 すると、近くでハルカとカスミの会話が聞こえた。
「見てこれー、シュウがくれたのー」
「へぇ、マシュマロかぁ。そっか、今日はホワイトデーだものね」
 どうやら、ハルカの彼氏であるシュウが、バレンタインのお返しをくれたようである。
(そうか…もうホワイトデーか。シゲルとデントとか、チョコ一杯もらってただろうから、忙しいだろうな…ん?)

「…で、昨日の今日まで、その事を忘れていた、と」
 焦りと羞恥で、人一人の目もまともに見ていられぬシンジに、タケシが静かに、しかし厳しいく一言。
 実はシンジ、バレンタインにヒカリから貰った(というより置いていったのを勝手に食べた)チョコのお返しのことを、ついさっき思い出したばっかりなのだ!
 しかしなぜわざわざ人に相談するのか。彼は、お菓子類は全く作れないからだ!!だから誰かに教わって作ろうという寸法である。
 普段ならシゲルあたりに相談するところだが、やはりお返しの準備で忙しいらしいし、シューティーに話したら絶対逆ギレされるのだ。というかそもそも二人も料理初心者だし。
 そうと来ればデント、かと思えば案の定お返しで忙しいのだった。
 というわけで、消去法でタケシに相談しに言ったわけである。え、サトシ?聞こえなーい。
「…ひとでなしの自覚はあるが…貰って、っていうか一方的に食べただけだけど…しばらくは幻覚とか見えてたし、治ったら治ったで、さっさと忘れたかったし…」
「言い訳をしに来たのか?」
「いや…」
 すっかり縮こまって、普段の威厳(威圧?)はどこへやら。
「まあいい。そうと決まれば長話をしている場合じゃないぞ。さっそく作ろう。材料ならある」
「あ、あぁ」

 斯くして、シンジとタケシのクッキー作りが始まったのだった…

「そのまえにひとつだけ教えてくれ」
「何だ?」
 タケシ、ほっっっっっっっっそい目をギランと光らせて言った。
「なぜわざわざ手作りをする必要がある?そんなに大事な事なのか?お返しが」
 ちょうどシンジが持っていたボウルが床と衝突、カランと大きな音が鳴った。
「…いや、スマン。さすがに深入りしすぎたな。そうだな。お前の問題だもんな。俺は1㎜も関係無いんだもんな」
 話がわかる奴でよかった、と呟いてシンジは、落としたボウルを拾い上げる。
「じゃあ、早速作るか」
「あぁ」
 そんな二人を見ていたカスミが、とりとめなくハルカに呟いた。
「シンジの後ろ姿、なんか女の子っぽくない?」
「あぁ、確かに」
 シンジ君、二度目の撃沈。
 ちなみに、現在の彼の姿は、スカーフ+エプロン+髪後ろ縛り。その後ろ姿は、どことなく女子に見えなくもない気がするのだ。
「とにかく作ろう!」
「はいはい」
 苦笑のタケシ。

 今回作るのは、みんな大好きクッキー。レーズンなどのフルーツ入りだよ。
「まずはバターをほぐし、砂糖を加えてクリーム状にする」
 タケシがレシピ本を片手に内容を教える。シンジが、それに従ってクッキーを作るのだ。
 難なくクリア。
「続いて、卵黄を半分くらい加える。残りは後で黄身塗りに使うからなー」
 これもクリア。なにげに簡単だ。
「で、それに小麦粉を加えて練る」
 グイッグイッと思い切り練るシンジ。
「あ、言い忘れたけど、軽くな。軽く。強く練るとよくないから」
「え?」
 ここで失敗…
「…いや、まだ三回くらいしかやってないからたぶん大丈夫…」
「この寮じゃ『大丈夫』はNGワードだぞ」
 とりあえず続行。
「…あー、ラップに来るんで1時間ほど寝かすぞ。もし急ぎなら20~30分でも大丈夫だ」
「『大丈夫』はNGワードなんじゃなかったのか?」
「今回は別」

 待っている間、ちょっと休憩することに。
「話は聞いてるぞ。ヒカリからのチョコで三途の川を見たんだってな」
「まさか人生で二回も渡りかけると思わなかった。相手が相手だからまた質が悪い…」
 でもさ、とタケシ。
「やっぱり、貰う分には嬉しいよな?」
「!」
 シンジは、少し目を見開いた。が、またすぐいつもの静かな表情に戻る。
「…貰うだけだったら、な…」
「まあ、誰でもさすがに死にたくはないよな」

 30分経過。
「次は成型だ。麺棒で、4㎜くらいの厚さに平らにして、好きな形に切り抜くんだ」
 平らにするのは難なくクリア。だが、ここからが本題である。
「シンジよ、このクッキーは何型なのだい?」
「………」
 タケシが問い詰めるが、シンジはそれを言い渋った。
 決めていないのか、はたまた…
「普通に円でイイよな?」
「いいのか?これはお前の思いを伝える大事なクッキー様々なんだぞ」
「んなこったって…その型、無いだろ?」
「あるぞ。ここには年頃の女子も住んでるんだからな。あと、料理人の俺とデントをナメるなかれ」
 じゃあ、とシンジは、タケシが持ち出した型から、ひとつを選んだ。

「余った生地は、卵白と混ぜ合わせて、絞り袋で絞れる固さに調整して、生地の上に絞り出す」
 慣れない作業に、少し手が震える。
「さ、ここでフルーツを入れるぞ。そしたらオーブンで焼くんだ。170度で15分」

 15分経過。
「さぁ、完成だ!ちなみに、クッキーは冷めてからの方が美味しいぞ」
「じゃあ、冷めたら渡すか」
 タケシが言った。
「ちょっと心配なところもあったが、よく出来てるじゃないか。あとは、ちゃんと渡せるかだな」
「…あぁ。礼を言う」
「あ!何かいい匂い!」
 クッキーのかぐわしい香りに誘われやって来た蝶々ハルカ。
「クッキー?美味しそう!!これってシンジが作ったの?」
「ま、まあそうだが…」
「すごーい!もしかしてヒカリ宛?だったら私が持って行ってあげる!」
「え」
 まさかの急展開。今にもクッキーを持って行きそうなハルカから、慌てて取り返そうとするが、
「遠慮しないで!大丈夫!シンジの気持ちはきちんと伝えておくから!感謝と愛の告白!!」
「両方とも俺に言わせろ!!!でなきゃ今までチャンスをうかがっていたのが水の泡に!」
(うかがってたんだ…)

 その後…
「………」
「あれ、どうしたのシンジ?そんな老けた…じゃなくて、しけた顔して」
 シゲルが、机に突っ伏しているシンジに声をかけた。
「いや…何でもない」
「嘘つけ。絶対何かあるだろう?」
「頼む。そっとしておいてくれ」
 頭を抱え込むシンジ。仕方ない、とシゲルは席を立った。
 とその時!
「シンジ!」
「?!」
 雷のような声が響き、シンジは顔を上げた。
「あれ、ヒカリ。どうしたのそんな鬼…じゃなくて、マンキーみたいな顔して」
「…ごめんシゲル。今はシンジに用があるの」
 目の色と同じ、冷たい視線で見られたシンジは、何かを察したように睨み見返した。
「何の用だ」
 するとヒカリは、あのクッキーを目の前につきだした。
(何あの分裂寸前のメタモンみたいな形は?!よく出来たなあんな形!)
 心の中で思いっきりツッコむシゲル。
「…貰ったのか。アイツから」
「えぇ。前のお返しですってね」
 ということは、あのことをヒカリは聞いたのか…シンジが口を開きかけたとき、彼女は驚きの発言をするのだった。
「こんな大量のクッキー、あたし一人食べられないでしょ。アンタにも責任もって片付けてもらうからね」
 あまりに予想外れできょとんとするシンジ。
「…要するに、一緒に食えと?」
「ま、まあ、要約するとそう言う解釈もあるかもしれないわね」
 恥ずかしいの何のでうつむくシンジ。ヒカリもヒカリで…
「じゃあ、僕は邪魔っぽいので一個だけもらって立ち去りますね」
「ちゃっかり食うなよ」
 さも美味しそうにクッキーを口に運んだシゲル。がしかし。
「………」
「…どうした?」
「…シン君。ひとつだけ言わせて」
 必死そうに飲み込む。
「これ、砂糖と塩間違えたでしょ?!
「え、あれ?!」
 タケシが監督だったから、そんなことはない。そう言いかけたが、よくよく考えれば、タケシはレシピ本とにらめっこ状態だったのだ。気がつかなかった可能性だって十分にある。
「そうよ!まさかアンタまでこんなショボい心配するとは思わなかったわぁ!!こっち大変だったんだからね!おかげでハルカが何言ってたか全然聞き取れなかったし!一人で全部とは言わないから、しっかり責任持ちなさいよ!!」
「…スマン」


~あとがき~
ホワイトデーって意外とネタがないorz
うご出来なくてもブログで小説が書けるから、そこはよかった。
スペも作ったよ。パウンドケーキ。
個人的には、シンヒカ大きく進展したつもりなんだが、そんなことはなかったぜ((
では、いつになるかわからんが、次回お楽しみに!