ifの話

「もしも…」っていう空想語ったり、Reality話だったり、絵だしたり

白銀の神様襲来

 ここはポタミアの森。奥には無駄と思ってしまうほどに立派な大木がそびえている。そして、その根元に建っているほこらには、ある神様が。
「キロ様、キロ様。今年も豊作でしたので、お供えに参りました。どうぞ…」
 二、三匹のポケモンが、穀物やら野菜やらをほこらの前に供え、去って行った。
「…キロ様、今年の野菜も美味しそうですよ」
「…わらわは正直、肉が食いたいのう」
「またそんなワガママ仰って…。一昨昨年は茶碗一杯分のお米も採れなかったんですよ。たくさん食べられるだけマシでしょう」
 一匹のイーブイが、大量の野菜や穀物を全部、涼しい顔をして持ってきた。
「…ディベよ。御主とは長い仲。今更言うのもあれだが、御主は何故そんなに怪力なのだ」
「あら、やんごとなきキロ様の巫女ですもの。大量のお供え物を一気に運ぶくらいの力はあって当然です」
 ディベと呼ばれたイーブイは、白銀の毛のイーブイ、キロに笑って答える。
 キロは、このポタミアの森に住む、下級の神様なのだ。
「しかし、わらわもそろそろ昇進したいのう…」
「普通のイーブイから神になれたのですから、例え下級でもすばらしいと思いますが」
「いーや。わらわはまだ満足しておらぬ。アルセウス様から貰ったこの首輪…これは、わらわが下級なんかじゃあ収まらないということを直接的に示しておる!」
 キロは、アルセウスの体に付いている黄色い輪っかと瓜二つな首輪を指さして、二叉の尻尾を揺らして高らかに宣言した。が、
(おそらく『下僕』の意かと…)
 ディベは思ったが、そんな事は言えるわけが無い。
「いやしかし…今思い返すと、わらわがこうしているのはどうしてだったかの…」

 今は昔。数字じゃ表せないくらい大昔の事だ。
 ある日、馬小屋の前で、一人の女性が産気づいた。そして生まれたのがキロだ。
 馬小屋と言えば、人間界ではイエス・キリストや聖徳太子を思い浮かべる人もいるだろう。始め、キロもそんな偉人になるのではないかと期待されていた。
 しかし、彼女の容姿は、他のイーブイとは大きくかけ離れていた。毛並みは白く、瞳孔は赤い。さらにしっぽが二股。
 それ故に人々に虐げられ、挙げ句に「悪魔」と罵られたりもした。
 そんな日々が十数年続いたある日、キロは森の奥でリンゴを発見。
 昔聞いた「禁断の果実」の話を思い出しつつ、空腹に耐えられずそれを一口かじった。その瞬間、
『抽選に当たりました』
 突如天からそんな紙切れが降ってきた。ポカンとしたのは言うまでもない。
 すると、目の前が真っ白になっていった。

 気づけばそこは雲の上。グラデーションの空が眩しい天空だった。
「…え、何ここどこ?!」
「ここは神々が集う場所。御主は選ばれたのだ」
「?」
 アルセウスの話を聞くと、遣り手の少ない神々の仕事を手伝ってくれるポケモンを、抽選で決めていたのだとか。
(何てテキトー!今まで神様にお祈りしてた自分がバカだった!!)
 とりあえず抗議しようともしたが、そんなことをする前に、さっさと手続きを済まされてしまった。
「では、今日から御主は、平和・秩序の神となった。良い働きを期待しておるぞ」
 首輪をもらったのもその時だと言う。

「いや本当、あの時はたまげた」
「今も昔も、神々社会は安定の適当だったんですね」
 しみじみとするキロと、苦笑いのディベ。
「そう言えば、私とキロ様が出会ったのって、それから二百年後ですよね」

 キロが神に就任してから早二百年。ディベが巫女としてこのほこらを訪れた。
(噂では、キロ様はこれ以上ない程、高貴で誇り高いお方と聞いている…そんな神様にお仕えできるなんて…)
 なんて思っていたディベ。
 だが、ふたを開ければそんな噂は全くのデマで。
 出会ったのは高貴で誇り高い神様でなく、傲慢でプライドの高い下級の紙…いや神だった。そんな訳なので、ディベはその日以来、神を信仰するのを止めたという。

「そうだったかの?」
 キロはその場しのぎで首を傾げる。
「えぇそうですとも。でも、今はキロ様にお仕え出来て、本当に良かったと思っています」
「御主から信仰心を失わせたわらわにか?」
 心配そうに聞くキロに、ディベは笑って答える。
「もちろん!」


〜あとがき〜
キロ様最近描いてないなぁと思いながら書きました。