ifの話

「もしも…」っていう空想語ったり、Reality話だったり、絵だしたり

空の涙

 あ、雨だ。
 参ったなぁ、この深い森の中、主人とはぐれたばかりなのに…
 とりあえず雨宿りでも、って、僕は水タイプだから大丈夫かな…?
 …ん?あんな所に誰か居る…
「………!」
 あ、向こうも気がついたみたい。
 とりあえず、一匹も何だし隣に座らせてもらおう。

「…よう、ポッチャマがこんなところで何してんだ?え、迷子?偶然だな。俺もだ」
「こんな大きな体なのにはぐれたのに気がつかない君の主人ってどうなんだろ…」
「まあそう言うなよ」
 しかし、エレキブルを見ると“アイツ”を思い出す。
 あの朴念仁は、人にもポケモンにも冷たいんだ。
 “アイツ”に逃がされたポケモンは数え切れないほどいるだろう…
 …もしかして、このエレキブルはそいつのなんじゃ…?
「…そうだ、向こうの方で木の実をいくつか見つけたんだ。半分やるよ。お前も腹減ってるだろ?」
「あ、アリガト…」
 一口食べてみる、うん、美味しい。
「…なあ、お前さっき迷子って言ったよな。て言う事は、トレーナーが居るんだな?俺の主人、ポッチャマを持ってるトレーナーと知り合いだぜ」
「へぇ…でも、ポッチャマを持ってるトレーナーなんて、いっぱい居るだろ?」
「進化させないトレーナーは結構珍しいかもな」
 まあ普通はそうですね…

「ねえ、ポケモンはトレーナーに似るってよく言うよね」
「言うなぁ。でもなんだ急に…」
「君のトレーナーも、君みたいに優しいのかな…」
 言うのは少し照れくさかったけど、気になったから言ってみた。
 “アイツ”のポケモンなら、こんなに優しくはないだろう。
 “アイツ”が優しくないだろうから。
「うーん…普段は普通なんだが、バトルの事になるとなぁ…。でも、本当は優しくて良い奴なんだ。もしお前の主人が俺の予想通りなら、そいつにも知ってもらいたいぜ。俺の主人のホントの姿…いや、全部ホントなんだが」
 そういえば、僕の主人は“アイツ”を毛嫌いしてたなぁ…
 なんだか妙に辻褄が合う気が…
 降りしきる雨を眺めながら、エレキブルはさらに続けた。
「お前の主人って、どれくらい泣いた事がある」
「え、そりゃもういっぱい。大会とかでいっぱい挫折を繰り返して。あと、寝癖が酷くて涙目の事もあるよ」
「そりゃ災難だな…。俺の主人もあるぜ。俺らが見たのは一度きりだがな」
 へぇ、やっぱり“アイツ”じゃないのかな。
 いや、“アイツ”も人の子。泣く事くらいはあるかも。
「あれはいつ頃だったかな。俺がまだエレキッドだった頃だ。夜中、ふと目が覚めた。辺りを見ると、主人が見当たらないんだ。少し探すと、主人が月を眺めているのを見つけた。俺の足音に気がついたのか、当時一緒にいた仲間もやって来てた。主人を呼んでみるとな…」
 エレキブルは、そこで一息つく。
 雨は、未だに降ったままだ。
 エレキブルは話を続けた。
「振り返った主人の目には、涙が溜まってた。何が理由か知らんが、泣いてた。ちなみに、その翌日は雨だったんだ。予報では言ってなかったぜ」
 なるほど。でも、主人の涙と雨と、どんな関係があると…?
「俺は思うんだ。あの雨は、主人の涙に誘われて降ったんじゃないかと。だから多分、昨夜も泣いてたのかもな」
「でも、だとしたら梅雨はたくさん降るよ?」
シンオウ地方に梅雨はないだろ」
 涙、か…
「お、小雨になってきたな。そのうち止むだろう」

 エレキブルの言った通り雨は止み、僕らも主人を探す事に。
「おい、ポッチャマ」
 呼び止められ振り返る。
「なあ、お前の主人に言っておいてくれ。たまには俺の主人とも仲良くしてくれってさ」
 エレキブルの主人、結局“アイツ”なのかはわからずじまいだけど。
「わかった。今度二人が会ったときに仲良くさせようかな」
「…会えたらな」
 エレキブルは笑って、「じゃあな」と手を振り去って行った。
 さて、僕も行くか。
「ポッチャマー!」
 あ、主人が来た。
 あ、虹だ。雨上がりの虹は綺麗だなぁ…